TRION NOTEブログ

2024-12-06
読みもの

PRO CRAFT-vol.5(前編)

PRO CRAFT-vol.5(前編)

私たちのコンセプトである「“道具”として寄り添い続ける」ものづくり。

道具として愛着が湧き、丈夫で長く使い続けられるものを。その信念のもと、皆さまに長く愛用いただけるよう、真摯なものづくりを行なっています。

そんな私たちのモノづくりに共感していただいた、各分野のプロフェッショナルとともに始めたのが「長く愛用できる道具」をカタチにするPRO CRAFT(プロクラフト)プロジェクト。プロフェッショナルならではの新たな視点と、トライオンの技術を掛け合わせました。

今回は、vol.2、3でご一緒したプロダクトデザイナーの秋田道夫さんと協働。Nothingシリーズの新作が登場です。

今回の前編では、新作の構想から形になるまでを、後編では完成した製品をご紹介します。

秋田道夫 プロフィール

Nothing第三弾がリュックになったこと

プロダクトデザイナー秋田道夫さんとトライオンのコラボバッグ・シリーズは、まず、二枚の革の壁からイメージを作った「Nothing トート」で始まりました。ひたすら、モノを入れて持ち歩くというバッグ本来の機能だけに特化したようなシンプルなトートバッグは、その硬そうに見えて実は柔らかいという、秋田さんのキャラクターをそのまま形にしたようなバッグです。

レザートートバッグ 秋田道夫

続く第二弾は、基本的なデザインはそのままに、A4サイズの縦型にしてショルダーストラップを付けることで、普段使いのバッグに仕上げた「Nothing トート縦型」と、ポッキーの箱のような開き方が特徴的な、スマホとケーブルだけが入るコンパクトなポシェット的な「Nothing スマホバッグ」。Nothingをシリーズ化するに当たって、機能性や使いやすさを、秋田さんならではのサービス精神で追加したバッグになりました。

実は、その「Nothing スマホバッグ」の形状は、秋田さんがトライオンとのコラボを始めるよりずっと前に、別の企画でデザインを作っていた、未来型のランドセルの構造をヒントにしたものでした。
「ある企画で、『秋田さんがランドセルを考えたらどうなります?』と訊かれたんです。その時に、下までずっと大きなベロがある形状とか、あんな厚みが本当に必要なのかといったことを考えていて、ランドセルの起源を調べたんです」と秋田さん。

日本での最初のランドセルは江戸時代に軍用にオランダの背嚢を輸入したのが始まりだとされていますが、現在の箱形になったのは、明治20年に伊藤博文が大正天皇の学習院ご入学祝いにプレゼントしたもの。そこから、今のランドセルの規格が定まっていきました。

「その伊藤博文がプレゼントしたランドセルが、ベロが一番下までなくて、非常にカッコいいんです。そこから、子供の通学用に特殊に進化したのが今のランドセルなんだなと思って、それを最初の形に戻すのはいいんじゃないかと考えました。それを私流のよりシンプルな形状にして作ったスケッチがあったんです。その企画はなくなってしまったのですが、なんとか形にしたいという思いはずっとありました」と秋田さん。

「アダムズ・ファミリーのウェンズデーをフィーチャーしたアメリカのドラマ『ウェンズデー』で主人公が使っているバックパックも、フラップが下までないデザインで、ちょっと発想が似てるんですよ。ああいうものを日本の小学生にも使ってもらいたいと思っていて。僕は、もともと小学校をデザインしたいという夢もずっと持っているので」と秋田さん。

そのランドセルのデザインを「Nothing スマホバッグ」で作った経験が、秋田さんとトライオンに、大人のためのランドセルはありなのではないかというアイデアをもたらしました。

大人のランドセルと薄マチビジネスリュックの出会い

大人のランドセルという発想自体は、バッグ業界には昔からあって、製品も様々なメーカーから出ています。それらと、今回のアイデアが大きく違うところは、薄マチのビジネスリュックを他社に先駆けて製品化したトライオンの技術の蓄積と、秋田さんが長年温めていたランドセルのデザインが偶然、大人用のリュックとしてぴったりだったということです。つまり、アイデアの元はランドセルでしたが、目指したのは大人のランドセルではなく、大人のリュックでした。

トライオンは、重い荷物を持つためのリュックという従来の発想を覆して、軽い荷物でも両手を空けたい、楽に歩きたいといった需要は必ずあると考えて、それまで無かった薄マチのビジネスリュックを世間に先駆けて発表しました。今回、そこに秋田さんのデザインが加わることで、よりシンプルに、ただ荷物を持ち運ぶというバッグ本来の目的に徹底した製品を作ろうという企画がスタートしたわけです。

アイデアの基本は、フラップがパタリと閉まってマグネットで留まる、凹凸のないフラップのデザインです。そのフラップの下端が作るラインで、バッグ全体がキレイに二等分されます。この、二つの同じ大きさの長方形が並んでいる形になるのがデザインのポイントになっています。

「最初は、元のランドセルのデザインに合わせて、真ん中より少し上にラインが来るようにしていました。ただ、背負っている人を後ろから見た時、真ん中にある方がカッコいいんですよ」と秋田さん。

今回のバッグは、少し「便利」に向かった第二弾の「Nothing トート縦型」ではなく、最初の、とにかくスタイリッシュであることと、その中に「優しさ」と「緊張感」をさりげなく入れた最初の「Nothing トート」に回帰したようなコンセプトになっています。便利よりも、使う人の美学に期待して、佇まいを優先したデザイン。

「元々、リュックというのは便利を追求して作られたバッグだし、ランドセルも小学生が安全に中の荷物を傷めることなく持ち歩くという機能に特化したバッグです。そこから、余計な機能を抜いて、佇まいを優先させるというのは、バッグとしての進化の方向に逆行するのかも知れません。でも、大人が使うバッグとしては、そういう方向のものが選択肢にあることは重要だし、カッコいいと思うんです」と秋田さん。この姿勢は最初の「Nothing トート」から一貫しています。

「確かに、便利な機能がウリではありませんが、使うと背筋が伸びるようなバッグにしようと考えました。私が時々言っている『躾のデザイン』の考え方ですね」と秋田さん。

まだ、世界的にも類を見ない「フォーマルのためのリュック」という新しいジャンルへの挑戦が、今回の「Nothing リュック」なのかも知れません。


秋田さんのデザイン哲学から生まれるNothingバッグも今回で4型目。いよいよ主要なラインナップが出揃います。商品発売とブログ後編は12月13日(金)を予定しています。次回は、その完成品の詳細や、秋田さんご本人の使ってみた感想などご紹介します。お楽しみに!