私たちのものづくりに共感して頂いた各分野のプロフェッショナルとともに、こだわりや思いを詰め込んだ「長く愛用できる道具」をカタチにするプロジェクト「PRO CRAFT」。vol.4のプロフェッショナルは、スポーツデザイナー・ボイスアクターの大岩 Larry 正志さん。
前編では、トライオンとラリーさんの出会いから、ラリーさんが考える「観戦者用バッグ」のアイデアまでのストーリーをお届けしました。
今回の中編では、具体的な開発の道のりをお届けします。
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豊富なアイデアが形に
ファーストサンプルが出来上がりました。ラリーさんからのアイデアは具体的だし、機能は豊富ですがバッグとしては特に極端なギミックなどもないため、製作自体には難しいことは無かったと、実際に製作にあたったスタッフは言っていました。
ただ、ひとつ大きな問題がありました。それは、どうしても仕様上、バッグ自体が大きくなるので、使う革の量も増えてしまいます。そのため、とても高価なバッグになってしまったということです。
「機能的には、欲しいと思った機能は全部、理想的な形で入っていたし、見た目はシンプルだけど実は多機能という線を狙っていたので、ルックスも問題ありませんでした。細部の調整は必要にせよ、思っていたものが形になったと思いました」というのがラリーさんのファースト・インプレッションだったそうです。ただ、やはりあまり高価格になるのは、トライオンもラリーさんも望むところではありませんでした。
「トライオンとしては、やはりグラブレザーのバッグが主軸のメーカーですし、革バッグとして作りたかったという思いはあります。ただ、やはり多くの方に手に取って頂きたいですし、そういうカジュアルな需要に応えられるバッグだと感じていたので、ここは革の使用量を減らしたいとラリーさんにお伝えしました。機能を考えるとサイズを小さくするという選択肢はありませんでしたし」と今回の製作全体を取り仕切っていた企画担当は言います。
ディテールの修正を重ね、最終形へ
「ぼくとしては、ファーストサンプルから、『そうそう、こういうことです』という感じでしたから、あとは、これをベースにどのように価格を下げていくか、ということと、使ってみて気がついたことをフィードバックするという作業になりました」とラリーさん。
やや大きめのチケットホルダーも、最初から、スマホが入れられて、社員証なんかも入れられるようにしていました。これだけ持ってランチに行って、夜はそれがチケット入れになるといったイメージですね。
「実は、このチケットホルダーが、この外のポケットにちょうど入る大きさなのは偶然です(笑)。出来上がってから気がつきましたけど、いい感じですね」とラリーさん。
細かいところでは、ファスナーの取手に付いている革紐も、グローブのイメージで長めにして端を斜めに切ってあります。こういう細部にもラリーさんのこだわりが詰まっています。しかも、その仕上がりを見て、もう少し長くしたいと要望を出します。グローブでも、紐の部分がだらっとなっている感じが好きなのだそうです。
「もし、長過ぎると思ったら、勝手に切ってもらえばいいんですよ。だから、少し長過ぎるくらいがいいんじゃないかな」とラリーさんは、細かく要望を出していきます。
観戦時は、バッグを床や地面に直接置くことが多いので、ファーストサンプルには無かった底びょうを付けて欲しいという要望も出ました。あと、最初は底板が固定されていたのを、着脱式にして、底がパンっと張っている方が好きな方でも、荷物が少ない時は底もスリムになる方が好きな方、どちらにも使ってもらえるようにとも指示されました。
革の分量については、トライオン側の原価計算などの結果で調整するということになりましたが、その際の革とファブリックの色に関しては、ラリーさんの指定で、ひとつはグローブらしいタンの革に黒のファブリックを合わせたものになりました。もう一つは、トライオン側の案で、黒の革に黒のファブリックという真っ黒なモデルに決定しました。
「セカンドサンプルのパネルレザーを使ったデザインも悪くないと思いましたけど、よりトートらしいデザインにしたのは、外ポケットを付けたかったからというのもあります。結局、ファーストサンプルから一番変わったのは革の量ですね。他はぼくがやりたいと思った機能を、上手い具合に詰め込んで頂いていたので、ほんとあとは細部の調整だけでイケると思いました」とラリーさん。
ラリーさんは、実際に、届いたサンプルを使って、ユニフォームを畳まずに詰め込んだらどうなるかとか、保冷シート入れが付いたペットボトル・ホルダーに実際にペットボトルや保冷材を出し入れしてみるといった作業を重ねて、機能が実際の現場で機能するかどうかのチェックをおこないました。ショルダーストラップも付いているけれど、取手を直接肩に掛けることも出来るように長さを指定したりと、徹底的に実用面でのチェックを行ったのは、最初のサンプルから機能には満足していたからこそなのでしょう。
他にも、細部に様々なラリーさんらしさ、観戦用である意味なども込められているのですが、それは次回、完成品の紹介の中で細かく解説していきます。
東京と大阪で、何度もサンプルを行き来しながら進んだ商品開発。最終サンプルではラリーさんにトライオンまでご来社いただき、細かい部分まで最終確認を行いました。
後編では、いよいよ完成アイテムのご紹介。多機能なディテールもしっかりとお伝えします。お楽しみに!
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