私たちのコンセプトである「“道具”として寄り添い続ける」ものづくり。
道具は、毎日繰り返し使うことで愛着が湧き、大前提として丈夫で長く使い続けられるもの。その信念のもと、皆さまに長く愛用いただけるよう、真摯なものづくりを行なっています。
そんな私たちのモノづくりに共感していただいた、各分野のプロフェッショナルとともに始めたのが「長く愛用できる道具」をカタチにするPRO CRAFT(プロクラフト)プロジェクト。プロフェッショナルならではの新たな視点と、トライオンの技術を掛け合わせました。
コラボシリーズ4回目となる今回は、プロ野球をはじめ様々なプロスポーツチームのユニフォームデザインやロゴなどを手掛けるスポーツデザイナーであり、ボイスアクターとしても活躍されている大岩 Larry 正志さんとコラボレーション。
野球という接点からご縁があり生まれた今回の企画。どのような過程でものづくりを行うのに至ったのか、スポーツを盛り上げたいと語るラリーさんの視点から生み出されたプロダクトの開発の裏側など、全3回シリーズでお届けします。
幼い頃の憧れが仕事へ
グラフィックデザイナーになる以前、10代の頃からアメリカのスポーツが好きだったラリーさんは、野球などのユニフォームのデザインにとても惹かれるものがあったのだそうです。
「まだ、ネットも無い時代ですから、雑誌の写真などを見て、ユニフォームやマークのデザインを研究していたんです。直輸入の本物は4万も5万もして買えなくて、なんてカッコいいユニフォームを着てるんだろうと憧れてました」とラリーさん。
デザイナーになってからも、自分にしか出来ないデザインって何だろうと考えていたラリーさんは、ずっと好きだった野球のユニフォームなら、自分の個性が生かせると思いつきます。知識もマニアに負けないくらいあるし、ユニフォームの研究は筋金入りです。しかし、その当時日本では、スポーツデザインを専門で行う人もおらず、どうやったらいいのかも分からない状態。周りの人に「プロ野球のユニフォームのデザインをやりたい」という夢を語っても、「そんなの無理でしょ」と笑われたことも。
知り合いもきっかけもない中で、何年ももがき、悩んでいた時、以前に提案書を送っていたナイキから声がかかり、オリジナルのユニフォームをテーマに個展を開催したことも。少しずつではありますが努力の成果も見え始めてきました。
「僕みたいな何者でもない若造が入る隙間も需要も無かったんです。ところが、近鉄バファローズがなくなって、楽天とかソフトバンクといった新しい企業が野球界に入ったことで、ファンサービスなどの考え方も新しくなったんです。プロ野球の仕組みそのものが大きく変る時期だったんでしょうね。たまたま、ぼくが通っていた美容室の方が、西武ライオンズでイベントをやろうとしている方を紹介してくれたんです」
そうやって、ラリーさんはプロ野球のユニフォームのデザインに関わることになり、ソフトバンク、楽天、そして東京ヤクルト、更には他のスポーツへと繋がりました。
「入ってしまえば狭い業界なので、四六時中野球のことばっかり考えてるバカなデザイナーがいるっていう話が広がったらしいんです。なんだか、全てがたまたまなんですよ」とラリーさんは笑います。
トライオンとものづくりのきっかけ
そんなラリーさんとトライオンとのご縁は、トライオンが東京で展示会をする際に担当となってくださっていた運営会社の方が、ラリーさんの大学の先輩だったことから始まりました。
「その先輩が、グローブを作ってる会社だから、野球のデザインやってるぼくと繋がるんじゃないかと紹介してくださったんです」とラリーさん。
トライオンとしても、野球とバッグを組み合わせた商品を作っていることもあって、すぐにラリーさんに「プロクラフト」という、レギュラーの製品とは別に、その道のプロの方と組んで製品開発をするプロジェクトがある事をお伝えしたのでした。
「その時に、すぐ思いついて『観戦者用バッグ』というアイデアを出しました。レプリカのユニフォームやメガホンなどの応援グッズも、ノートパソコンとかも全部一緒にして会社に持っていけて、そのまま野球などのスポーツ観戦にも行けるバッグがやりたいって、その場で言ったと思います」とラリーさん。
ラリーさんが考える「観戦者用バッグ」
実際、スポーツをやる人のためのバッグというのは色々ありますが、スポーツを観に行く人のためのバッグというのは、あまり聞いたことがありません。ラリーさんも以前に、野球をする人が、会社帰りにそのまま野球の試合や練習に行けるといったプレイヤー特化型のバッグは作ったことがあったそうです。
「今回は、応援する方や野球ファン向けのバッグが作りたいと思ったんです。それで、最初の段階で、チケットホルダーを付けたいとか、断熱シートのようなものをどこかに付けて、スポーツドリンクやビールを冷たいまま入れておけるとか、レプリカのユニフォームを入れておける通気性のいいメッシュ付きのポケットが欲しいといった機能は、お願いしていたと思います」と、ラリーさんは最初の打ち合わせを振り返ってくれました。
トライオンとしても、野球観戦用のバッグが実際にグローブに使われている革で出来ているというバッグは是非実現したいと考えました。また、ラリーさんがプロデュースしてくださるということで、単なるジムバッグのようなものとは違うバッグが出来るのではないかという期待もありました。
「手でも提げられるけれど、ストラップを付けてもらって、ショルダーバッグとして使えるようにもしたいとお願いしました。それと、チケットホルダーですね。実は、ぼく自身、チケットホルダーを使っていなかったんです。それは何故かというと、普通に売っているチケットホルダーって、どこかの球団のロゴが入ってるんですよ。応援グッズのひとつなんです。でも、色んな球場に行きたい人は、それだと使いにくい。なので、ぼくが自分でも使えるチケットホルダーが欲しかったということもありました」とラリーさん。
ビールを持ったままチケットを見せられるようにフリーハンドになるショルダーストラップとチケットホルダーを用意するといったように、ラリーさんのアイデアは、とても実践的なのです。そこは、やはり筋金入りの野球ファンでありデザイナーであるということなのでしょう。ただ、基本的にシンプルなバッグを作ってきたトライオンとしては、今回のような多機能のバッグを作るのは久しぶりの試みになります。その意味では、結構、冒険したバッグになりそうです。
出会いから約1年、何度かの打ち合わせで、そういった、様々なアイデアを受け取って、いよいよトライオンでのファーストサンプルの製作が開始されました。
偶然とは思えない、必然的な出会いから始まった今回のプロジェクト。チケットホルダーや断熱シート付きなど、豊富なアイデアから生まれる観戦者用バッグとは?次回は、実際のサンプル作りの様子をお届けします。
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