私たちのものづくりに共感して頂いた各分野のプロフェッショナルとともに、こだわりや思いを詰め込んだ「長く愛用できる道具」をカタチにするプロジェクト「PRO CRAFT」。vol.3のプロフェッショナルは、プロダクトデザイナー秋田道夫さん。
プロセス最後となる今回の後編では、様々な修正を繰り返して完成した商品のディテールや、秋田さんのコメントをお伝えします。
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着脱式になった縦型トートのショルダー
出来上がった最終サンプルは、一見、前のサンプルとほとんど変わりはないのですが、実は細かくリチューンされています。そして、その細部のチューニングがバッグ作りにはとても重要なのです。
縦型トートは、ストラップが着脱式になりました。ただ、秋田さんのデザインにD管などの金属パーツは似合わないということで、取り付けに工夫があります。外観のスッキリした美しさを損なわないように、内側にストラップを取り付けてあるだけでなく、ストラップ自体は内側にあるギボシで装着しているため、金属パーツはギボシの小さな突起だけで、ストラップには長さ調整のバックルの他には金属パーツがありません。さらに、ギボシが外れないようにストラップを通す革パーツが付けられています。
上記右側の写真のように、ストラップは上部のループを通す構造なので、バッグの側面から真っ直ぐに伸びるようになっています。この構造が実際に肩から提げた時にもバッグ自体の直線の美しさを損なわないのです。ギボシを留めるパーツはバッグの外側にあるのですが、小さい上に黒く塗ってあるので目立ちません。
美的センスと実用性の二面性を持つトート
もちろん、何も入れていない状態でも自立するのは「Nothing」から続く、このシリーズの特長であり魅力。バッグの内装は明るいアイボリーで見通しがよく、中に入れたものを探すのも手間取りません。
「Nothing」では底板も明るい色になっていましたが、開口部が狭く、底までの距離が長い縦型トートでは、底板の色が明るくても中が見やすくはならないため、黒にしてあります。この辺りも、実際にサンプルを使った秋田さんの判断です。
A4のファイルが入る大きさですが、縦型でマチが薄いため、かなりコンパクトに見えます。そして、「Nothing」以上に軽く感じられます。特に、ストラップを外した状態だと、そのフォルムの美しさと軽快さが際立ちます。ストラップを着脱式にしたことで、実用性とデザイン性の両方を獲得したという感じがあります。それは、センスとサービス精神という秋田さんの二面性をひとつにまとめたことから来るイメージかもしれません。
スマホバッグが箱形である意味
「スマホバッグ」の方は、カッチリとした箱形なのに、武骨なイメージになっていない、ありそうで無い形に仕上がりました。ポッキーの箱のように斜めに開くようにすると、むしろ開閉時の手間が増えてストレスになるため、上部は真っ直ぐになっていて、箱形に曲げられたフラップが付いた仕様になっていますが、これがスムーズな開閉に繋がっています。
フラップの端が少し浮いているので指が掛かりやすく、スパッと開くことが出来る心地よさは、秋田さんがこだわった部分です。また、内グリの深さの絶妙さはもちろん、角をなくし曲線にしてあることで、指を突っ込んでスマホを取り出す動作にストレスがありません。こういう部分に時間をかけることができるのは、プロクラフトシリーズの特長のひとつだと言えるでしょう。
実際にスマホを入れてみると、ほんの少しだけ空間に余裕があります。その余裕が出し入れのしやすさに繋がっているのですが、一方で、この余裕が大きくないからこそ、内部でスマホがしっかりとホールドされます。首や肩から提げて使う、この手のポーチは、中でスマホが動き過ぎるのも結構ストレスになります。意外に大が小を兼ねないので、サイズ感の調整は重要なのです。
その意味でも、秋田さんならではの、スマホの他はケーブルくらいしか入らないという思いきった仕様は他にはない使いやすさを生んでいます。ストイックだけれど便利というのが、この「スマホバッグ」の面白さと言えるのではないでしょうか。面白いといえば、このバッグのフォルムは、秋田さんがずっと以前に構想していた「大人のリュック」とほとんど同じなのですが、ご本人は全く意識していなかったのだそうです。機能やコンセプトに沿って作られた形が偶然に一致するのは、その形が、ある種の正解だからなのかもしれません。
秋田さんからのメッセージ
今回は、特に苦労もなく出来上がったのは良かったです。もう、私の頭には、きっかけをくださった女医さんと助手さんが満足してくれるかだけが気になっています(笑)。彼女たちはスマートで小柄なので、前の「Nothing」だと大きいんですよね。でも、今回の縦型トートはA4サイズなのに、もっと小さく見えるんです。だから、女性とか、荷物が少ない男性に使ってもらえたらと思います。
ストラップを着脱式にしたのもポイントです。金具を留めるビスが表に出てるんですけど、これがカッコいいんですよ。私が言ったわけではなく、トライオンさんでこれにしてくださったのだけど、大体、いつも設計の方にお任せした方が上手くいくんです、私の場合。内装を明るくして、底板を黒にしたのも、中が見やすいだけじゃなくて、全体におしゃれになったと思います。
スマホバッグの方は、中に付けられた私のネームタグが大き過ぎて恥ずかしいんですけど、これもアクセントになると言われて納得しました(笑)。とってもシンプルな箱型なので、アクセントは必要かもです。このバッグも、いつものように、あまりサイズ感は細かく考えずに、「これだけ入って、これくらいの余裕があればいいかな」と描いたサイズが、出来上がってみたら皆さんに「絶妙」と言っていただいて、ありがたいです。
かなり用途を限定するサイズですけど、私は全方向に対しての正解なんて無いと思っています。なので、こういう思い切りというか、欠点がむしろ可愛く見えるような、一点突破みたいな製品が好きなんです。それに、アイデアの元がポッキーの箱だったから、実はポッキーを入れるとぴったりなんです。ポッキーを折らずに持ち歩けるケースです(笑)。あ、サイズに関しては、フラップの開閉する部分はちょっと考えました。持ち歩いていて、うっかり開いてしまわず、でも、サッと開閉できる位置を探って比率を決めたんです。
どちらのバッグも、なんとなく歩き出したら、全体が上手く繋がってくれた感じで、そこが秋田らしいと言えるかもですね。
vol.2で生まれた「Nothing」の兄弟分ともなった、今回の縦型トートとスマホバッグ。トライオンとしても、無駄を削ぎ落としたDOCUMENTシリーズの進化版ともいえるミニマルシリーズが出来上がり、新しい可能性が広がった製品となりました。
性別や年齢を問わず、シンプルなプロダクト好きな方にお使いいただきたいアイテムです。