TRION NOTEブログ

2022-12-09
読みもの

PRO CRAFT-vol.2(後編)

PRO CRAFT-vol.2(後編)

私たちのものづくりに共感して頂いた各分野のプロフェッショナルとともに、こだわりや思いを詰め込んだ「長く愛用できる道具」をカタチにするプロジェクト「PRO CRAFT」。シリーズ第二弾のプロフェッショナルは、プロダクトデザイナー秋田さん。
プロセス最後となる今回の後編では、様々な修正を繰り返して完成した商品の、秋田さんの所感や商品の詳細をお伝えします。

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最終ミーティング

大阪本社でのミーティングで秋田さんから提示されたのが、「カバンを持たない人のカバン【Nothing】」というコンセプトです。それは、今回のプロジェクトで製作したバッグの名前にもなりました。

秋田さん自ら製作して頂いたNothingのロゴ

見た目は、端正と言ってもいい佇まいの、当たり前のバッグに見えるのですが、その大きさに反して、中に沢山モノを入れるようには作られていないという、反・バッグ的なコンセプトは、新しいを通り越して過激と言えるかも知れません。しかし、このバッグひとつでバーに向かう秋田さんの姿は容易に想像できますし、その姿に、これほど似合うカバンも無いように思われました。

レザートートバッグ
サードサンプル。ほぼ完成形に近いかたちに

しかも、秋田さんは、ファーストサンプル、セカンドサンプル、サードサンプルを見比べながら、更に細部について検討し、要望を出していきます。シンプルなものを作るには、過剰なまでに出来ることはやらなければならないという秋田さんのモノづくりに対する姿勢が感じられました。

秋田道夫
秋田道夫

そうして、完成したのが、PRO CRAFT #02「Nothing」です。

完成した、カバンを持たない人のカバン「Nothing」

レザートートバッグ

出来上がった「Nothing」は、外観はA3サイズの把手が短いトートバッグといった趣です。ただ、この薄いマチと決して小さくはないサイズながら、何も入れない状態でカバンは自立し、しかも、そのシルエットは、ピンとエッジが立った、一枚のプレートのように見えます。ところが、触ってみると、とても柔らかくしなやかな手触りの革なのです。

レザートートバッグ
ハンドル下だけに細長い芯を入れ開口部を折り返すことで、手が触れたりモノに触れるフチは丸みを帯びた「かたやわらかい」シルエットに
レザートートバッグ
サイドのフチにはコバ塗りを施すことで、ピンとした印象に
レザートートバッグ
紙袋のようなマチのつくり

しかも、革が薄く、芯も入れていないため、とても軽い。この大きさの総革のカバンで750gというのは、軽いバッグを多く作っている私たちとしても、驚きの軽さです。

レザートートバッグ
約750gという軽さを実現

中には、外出に必要な最小限のもの、それこそ財布と鍵、スマホに筆記具と手帳、文庫本一冊も入れれば、そのくらいが限度、といった使い方を秋田さんは推奨しています。本来なら、ポケットに入れれば済む程度の、しかしポケットが膨らむのもカッコ悪いし、手ぶらで出るのも手持ちぶさただし、大人としてどうなのか、といった部分を解消するためのカバンとも言えます。


「かつて、大人がみんな持っていた、セカンドバッグがカッコ悪くなってしまった現代の、新しいセカンドバッグ的な存在と言えるのではないでしょうか。それを最初から意識していたわけでは無いのですが、頭のどこかに、今の大人に足りないものとしてセカンドバッグがあったようにも思います。納富さんにも指摘されていましたし。現代の大人の嗜みとしてのバッグになればと思います」と秋田さん。

レザートートバッグ

内側のタグに刻印されている「Nothing」のロゴは、秋田さんの版下をそのまま使わせていただきました。秋田さんのアイデアスケッチや絵画などに必ず付けられる、秋田さんのサインもロゴに加えています。そこには、トライオンと秋田道夫のダブルネーム製品という意味も込められています。

レザートートバッグ
レザートートバッグ

使う人を選ぶ、メインテナンスもそれなりに必要なカバンですが、間違い無くスタイリッシュで、でも、誰が持ってもきちんと決まる普遍性がある、その意味で、とてもリーズナブルなカバンに仕上がったと思っています。写真では分かりにくい、この「当たり前でカッコいい」カバンを、是非、手に取ってみてもらいたいのです。

秋田さんからのメッセージ

秋田道夫

長く、プロダクトデザイナーをやっていますが、金属や樹脂を扱うことが多く、革モノをデザインするのは初めての経験でした。なので、自分の考えが、革製品として成立するかどうかも分からなかったのですが、革を使ってこういうことをやりたいというビジョンはありました。それが、壁というキーワードでした。

樹脂や金属でなら簡単にできるけれど、それでは面白くない。革で実現させるからこそ面白い形という意味もありました。結果として、トライオンさんは、私のイメージ通りの製品を作ってくださいました。

セカンドサンプルが届いた時に、これは良いモノが出来ると直感しました。私のこういう直感は当たるんです。そこから先は、トントンと話が進み、最終調整では、私の注文に対し、社長もツーカーで理解してくださって、それがとても嬉しかったのを覚えています。

最後の最後まで、細かい注文を出す私に根気強く付き合って下さった企画の多留さん、製作の五十嵐さんのおかげもあって、普段カバンを持たない私が、日常的に使いたくなるものが出来たと思っています。また、「秋田道夫が作ったんだよ」と自慢したくなるカバンになっていることが、とても嬉しく思います。全く違うジャンルのものですが、この佇まいは、私がデザインした湯呑み「80mm」と同じ匂いが感じられます。ミニマムなのに過剰で、時代性が無いタイムレスな形は、私が好むものです。

ハンドルの持ち心地も、立てた時の姿も、持ち歩く時の軽快さも、机の上などに投げ出された時の風情も、とても気に入っています。ありがとうございました。

秋田道夫
秋田道夫

数々の素晴らしいプロダクトを手掛けられている秋田さんに初めてお会いする際は、どんな先生が来られるのだろうととても緊張したのを覚えています。実際にお会いすると、物腰柔らかでユーモアも交えたお話や表情がとてもチャーミング。気づけばすっかり話に惹き込まれ、とても引力のある魅力的な方でした。

デザインや考え方に対する哲学は、第一線を走ってこられた方の厳しさや鋭さに溢れ、私たちにとってもその姿勢が勉強になり、新たな製造方法にチャレンジできた、貴重な時間と経験となりました。

秋田さんのクリエイティブとトライオンの技術がまさしく融合した、革だからこその「かたやらわかい」表情とフォルム。そして何より、秋田さんの哲学をバッグに落とし込んだこのバッグは、DOCUMENTの前身でこのシリーズの原点でもある「Aシリーズ」のまさしく進化版と言える、新しいアイテムとなりました。

その進化したカタチを皆さんにお届けできることを、ファクトリーメーカーして心から嬉しく思います。

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