私たちのコンセプトである「“道具”として寄り添い続ける」ものづくり。
野球グラブのファクトリーメーカーでもある私たちは、野球をするために欠かせない“道具”であるグローブと同じように、バッグも日々の暮らしに欠かせない“道具”として考えています。
道具は、毎日繰り返し使うことで愛着が湧き、大前提として丈夫で長く使い続けられるものである。その信念のもと、皆さまに長く愛用いただけるよう、真摯なものづくりとアフターフォローを行なっています。
そんな私たちのモノづくりに共感していただいた、各分野のプロフェッショナルとともに始めたのが「長く愛用できる道具」をカタチにするPRO CRAFT(プロクラフト)プロジェクト。プロフェッショナルならではの新たな視点と、トライオンの技術が掛け合わさった、新しいモノづくりの形です。
前回の#01は、昔からトライオンをご愛用頂き私たちと親交も深い、フリーライターの納富廉邦さんと「ノートバッグ」を作りました。
#02となる今回のプロフェッショナルは、プロダクトデザイナーの秋田道夫さん。
私たちが普段目にする信号機など公共製品をはじめカトラリーなどの日用品まで、幅広いデザインを手掛けられている秋田さん。その卓越したセンスと哲学で、ご自身のブログやTwitterでの文章も話題の秋田さんとのものづくりの様子や、出会いから企画商品完成までの開発ストーリーを全3回シリーズでお届けします。
今回のプロフェッショナルご紹介
秋田さんのプロダクトデザイナーとしての仕事は多岐に渡ります。六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズに設置されているセキュリティゲートや、省力型フードレスLED車両灯器、LED薄型歩行者灯器といった信号機など、街の風景の中にある製品から、ルーペやテープカッター、ボールペンなどの文房具、一本用ワインセラーやサーモマグコーヒーメーカーなどの家電製品に、湯呑みやカトラリーといった生活用品まで、日常の様々な場所で使われる「プロダクト」をデザインされています。
そのどれもが、円柱や四角柱などのシンプルな形で構成されていて、単体で見ると先鋭的な形なのにも関わらず、生活の中に溶け込んで邪魔にならないのが大きな特徴。「自分の部屋に置きたくないものは作らない」「クライアントとユーザーの双方に喜んでもらうのがデザインの前提」という、一見、矛盾するようなコンセプトを実現してしまう、しかも、本人はそっと裏側に隠れて出しゃばることがない、正にプロフェッショナルなデザイナーです。
思いの共感からスタートしたモノづくり
秋田さんとトライオンを繋いで下さったのは、PRO CRAFTの第一弾「ノートバッグ」を私たちと一緒に作ったライターの納富廉邦さんでした。昔から秋田さんと親交がある納富さんが、当時製作中の「ノートバッグ」のサンプルを秋田さんに見せたところ、その革の質感などからトライオンに興味を持ってくださいました。しかも、早速トライオンを検索しDOCUMENTシリーズを気に入った秋田さんは、「実は、僕もカバンを考えていたんだよ」と、スケッチを取り出したのだそうです。
「プロダクトデザイナーの秋田道夫さんが、トライオンと一緒にカバンを作りたいと仰ってますが、どうでしょう」と納富さんから連絡を受けた私たちは、ビックリしつつ大喜びでした。ちょうど「ノートバッグ」の最終サンプル完成後の撮影や打ち合わせで納富さんが来社されるタイミングで、秋田さんも関西にいらっしゃるということでしたので、本社での顔合わせが実現しました。
初顔合わせは、あいさつ程度で終わるのかと思いきや、その場でアイデアをどんどん提示される秋田さんの発想と、お話の中に挟まれるユーモアに、私たちはすっかり引き込まれていました。
秋田さんが考える「普段、バッグを持ち歩かない人が持ちたいバッグ」というアイデアと、紙袋の代わりとして発想したDOCUMENTシリーズとの共通点や、秋田さんの無駄を省きながら細部にまで気を配るデザイン哲学が、私たちのバッグ作りの根本と通じるものがあり、話し合いはスムーズに進行。あれよあれよと、バッグ作りが具体化していきました。
秋田さんの「機能を増やすには技術がいるが、機能を減らすには哲学がいる」という言葉に共感した私たちは、このプロジェクトで私たちが培ってきた技術と革を使って、DOCUMENTシリーズ誕生当時とはまた違ったミニマルなバッグが生み出せるという可能性を感じたのでした。
秋田さんが“ちょうどいい”と感じるバッグとは
初顔合わせの時に、既に秋田さんが用意していてくださったのは「大人しいカバン」というコンセプトと、それに伴ってデザインされたトートバッグのCGでした。
基本的に、カバンを持ち歩かない、持ち歩いても、エコバッグ的なものに財布とスマホだけを入れて出掛けるという秋田さんが考えるのは、「何もいれなくても持ち歩きたいカバン」。それを、土のにおいがするような革が壁になっているようなデザインで作りたいというお話しをされました。
2枚の壁が屹立しているだけのようなカバン。見た目は壁のように固そうでシャープなのに、触ると柔らかい「かたやわらかい」ものが、革なら作れるのではないかという発想です。「革のことは何も知らないので、実現できるかどうかは分からないのですが、まずは、そういうコンセプトに挑戦してもらいたいと考えています」と秋田さんは仰いました。一方で、「プロダクトデザイナーですから、実現不可能となったら、また別のアイデアをいくらでも出しますよ、そういう仕事ですから」と笑顔で言ってくださいました。
他にも、ハンドルを隠したい、自立させたい、などなど、具体的な要求が出てきます。秋田さんの中に明確なビジョンがあることが伝わって、私たちの中にも、バッグの形が見えるようでした。
納富さんによる解説もあって、初顔合わせとは思えない充実した打ち合わせが行えました。秋田さんの具体的なプレゼンのおかげで方向性も決まり、速いペースで製作へと向かうことができたのです。
秋田さんとの初顔合わせから始まった新プロジェクト。次回は、秋田さんのアイデアを形にしていく、困難を極めたサンプル製作の様子をお伝えします。お楽しみに。
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