私たちのものづくりに共感して頂いた各分野のプロフェッショナルとともに、こだわりや思いを詰め込んだ「長く愛用できる道具」をカタチにするプロジェクト「PRO CRAFT」。シリーズ初回のプロフェッショナルは、ライターの納富さん。
前編では、私たちの新たなプロジェクトの思いから、納富さんとトライオンの関係、開発に至るまでのストーリーをお届けしました。
今回の中編では、具体的な開発の道のりをお届けします。
私が欲しいバッグとは
文:納富 廉邦(ライター)
私とトライオンさんによる新しいバッグ製作が始まりました。コロナ禍の最中でもあり、大阪と東京なので、リモートでの打ち合わせがメインです。その時に、私の要望として出したのが、
□ 縦型のショルダーバッグ
□ 表と裏はスムースレザー、側面にシボ革を使う
□ A4のファイルが入る大きさで、iPadが入るポケットが付く
□ 大きめのレンズを付けたミラーレス一眼デジカメが入る程度にマチ幅を広く
□ 上部に小さなあおりポケットを付けたい
□ デザインはトライオンらしくできるだけシンプルに
□ 開口部はトートバッグのように開き、そこにファスナーとマグネットを付ける
□ 内装はシンプルに、iPad用ポケットの他は、マチありポケットを上部にひとつ、ペン差しをひとつ
□ 内部にペットボトルや折り畳み傘を立てて収納するためのポケットを付ける
といった内容でした。
つまり、かつて展示会で見たショルダーバッグの側面と表面を入れ替え、サイズをA4が入る縦横と、カメラが入るマチ幅にするというのが基本アイデアでした。
縦型にしたのは、電車の中で邪魔にならず、肩から提げた時にカバンが身体から大きくはみ出さず揺れにくいようにするためです。つまり、これは、取材に行く場合の、資料の書類と撮影用のカメラと取材用のiPadがまとめて入って、カバンを提げたままで、歩きながらでもモノの出し入れが出来るバッグです。そして、それがトライオン風にシンプルに仕上がれば最高だと考えました。
ミーティングでは、お互い、ちょっとスケッチを見せあったりして意思の疎通を図り、数週間で、最初のサンプルが届きました。
イメージと違ったファーストサンプル
届いて、最初に思ったのは「全然違うのが出来てきた(笑)」でした。
いや、伝えた仕様はきちんと反映されていたのですが、私が頭に描いていたものとは形が違いすぎたのです。
ただ、困ったことに、使い勝手は悪くありません。デザインも悪くなく、試しに女性に提げてもらったのですが、それも良い感じでした。私が欲しい仕様を満たしているのですから、私が使いやすいと思うのは当たり前ですが、しばらくこの「コレジャナイ感」と「便利」の間で悩みました。
大きな食い違いは、側面に使ったシボ革が、外に膨らんでいたことです。
私は、側面にシボ革を使うことで、荷物に応じてフレキシブルに厚みが変わるバッグを想定していたのですが、そこが外側に張り出していると、カバン自体のシルエットがとても大きく見えるのです。また、スムースレザーの外側に向けてシボ革が縫われていたので、その部分も膨らんで見えます。
私はトライオンさんの「見た目よりも容量があるコンパクトな感じ」が大好きだったので、「いやいや、そうじゃなくて」と思ったのでした。使いやすいけれど、これでは、普通のショルダーバッグなのです。
二回目のミーティングでは、そのあたりを伝えました。ただ、私はバッグ作りには素人なので、「側面のシボ革が内側に来るように縫って欲しい」という要望が、どういう結果になるのか、予想が付きませんでした。
ただ、とにかく、見た感じは小さいのに、ちゃんとA4の書類とiPadと大きめのデジカメが入るという部分は、変えたくなかったので、そこは、しっかりと伝え、相手をしてくださった企画の多留(たる)さんも、何度もスケッチを描いて私の要望を確認してくださいました。
思っていた通りのカタチへ
そうしてでき上がったサンプルは、「これこれ!」というものでした。
この、側面が内側に折り込まれて、横から見たら三角になる感じを求めていたのです。「クラシカルな手法で作ったけど、最近はこういうバッグを見かけないので、かえって新鮮かも」という、現場のスタッフからのコメントも嬉しいものでした。
ほぼ、仕様やデザインは、私の想定通りです。トライオンさん側からの提案で、ショルダーベルトを付ける位置を側面から前面と後面へと移動しました。自立するのも良い感じです。
また、最初の打ち合わせ時に頼んでいた「あおりポケット」と内部のペットボトルホルダーは、最初のサンプル試用時に使わないし使いにくいことが分かったので、外したのですが、それも正解でした。そのかわりに、外側にひとつ、縦にファスナーを入れたポケットを付けることにしました。やっぱり、外ポケットはあると便利なのです。
そこからは、細かいサイズ感や、革の色、ポケットなどの仕様の細かい点についての打ち合わせです。しかし、サイズなんて、正解はどこにも無いのです。なるべくコンパクトに、しかし必要なモノはちゃんと入るように、と考えると、なかなか、大きさが決まりません。
微調整を繰り返し、理想へと近づける
バッグメーカーのカバンの多くは、A4対応と書いてあればほぼB4が入るサイズだし、私のバッグのヒントになったショルダーバッグもA5対応なのだけど、B5は楽に入り、あと2センチほど大きくすればA4が入るのです。
そうする気持ちは痛いほど分かるし、大は小を兼ねるというのはバッグにおいては真実なのですが、せっかく私が欲しいバッグが作れるのですから、そこは妥協したくありません。
ケースに入れたiPadやA4のクリアファイル、レンズを付けたデジカメなどを何度も出し入れしながら、5mm単位で大きさを指定します。また、外ポケットの位置なども使い勝手と見た目のバランスを考えながら指定。さらに、側面のシボ革が内側に曲がりやすくなるようにお願いしたり、こまかい調整を行いました。
届いたサードサンプルは、正に理想のバッグという感じでしたが、マチ幅と高さについては、ギリギリを攻めすぎた感じで余裕がなく、モノの出し入れがしにくく感じたので、さらに微調整を行いました。
また、内側のiPadポケットの付け方や位置、外ファスナーの位置など、使ってみて気になった部分を修正。この時のミーティングでは、「このまま横型にしても面白そう」とか、「いっそ、短いストラップにしてトートみたいに使いたい」といったアイデアも出ました。
それはそれで、いつか実現したいと思いつつ、色も決めて、次が最終サンプルにしようというところにこぎ着けました。最終サンプルが手元に届いた時には、始めてから1年が経っていました。
数多くの打ち合わせやサンプル製作を経て、完成へと近づいた納富さんの理想のバッグ。
次回の後編では、いよいよ完成した商品の全貌をお見せします!
さらに、納富さんの所感や、商品ディテールをご覧いただきますのでお楽しみに。