フィリピン工場(以下トライフィル)でバッグ生産が始まってから25年。フィリピンでモノづくりをする上で、技術や品質、生産を管理・指導する日本人技術者が重要な役割を担ってきました。
2014年に着任して以降、バッグの専門家として、トライオンのモノづくりを支えている五十嵐さんに、仕事の内容や大切にしていることを語ってもらいました。
開発と生産のかなめ
語り手:五十嵐さん
主に「企画開発」と「生産管理」の二つを担当しています。
企画開発では、受け取ったサンプル指示書をもとにトライオンの担当者と相談しながら、企画やデザインの意図を正確に理解し、トライフィルのパタンナーやサンプルメーカーに伝えることを心掛けています。こだわりのポイントは残しつつ、工場での作りやすさを考慮することも大切だと考えています。
トライフィルのバッグ生産部はメンズ・レディース両方のレザーバッグ、革小物、バスケットと異なる種類の商品を多品種小ロットで作っています。均一な管理が難しい中、各商品のコスト、品質、納期に合うよう最善を尽くしています。
引き継がれる「丁寧なモノづくり」
日本人の技術指導者は私で4代目と伺っています。初代、2代目の方々とはお会いしたことはありませんが、工場で作られているものを見れば、日本の丁寧なモノづくりが受け継がれていることが分かります。
例えば、財布の内装構造のパーツ数が多く、手間はかかりますがお客様にとっては使いやすいつくりになっています。
生産効率を優先して簡略化することは容易ですが、一度簡単なものに変えてしまうと、技術を取り戻すのはとても難しい。20年前から長く使ってくださっているお客様を失望させたくないという気持ちもあり、そのまま引き継いでいます。
日本ではもうあまりやっていない手縫いの工程が多いのも特徴ですね。効率や生産性を追求するだけではない、手間を惜しまないからこそ出る美しさや風合いがあると思います。
野球グラブメーカーゆえの発想と技術
トライフィルが独特なのは、ベースが野球グラブの工場であるということです。前任者の方々が指導された基礎の上に、普通のバッグメーカーにはない野球グラブ製造の技術が混ざっているのが面白い。
例えばVol.2でもご紹介した、縫い目が外側に出ない構造を可能にした「ひっくり返し」の工程。野球グラブの生産には、手袋状にした後に裏表をひっくり返し、1本1本の指を丁寧に成形する工程があります。革をきれいにひっくり返す技術があるからバッグにも転用できた。
▲目にも止まらぬ速さで、正確に丁寧に「ひっくり返し」ていく
バッグ作りの常識にとらわれない発想とそれを裏付ける技術が相乗効果をもたらし、他のメーカーとの違いとなって表れていると思います。
バッグ一筋の人生
東京都台東区でバッグ職人の両親のもとに生まれました。子どものころからお小遣い稼ぎに下仕事を手伝っていたので、ごく自然に違和感なくバッグ業界に入りました。
最初はレディースバッグのメーカーで型紙を学びました。今振り返ると、ここでモノづくりの基礎を身につけたことが非常に大事だったと思います。
その後問屋に転職し、メンズバッグブランド新規立ち上げの商品開発を担当しました。その後は中国でバッグ工場の立ち上げと経営を経験し、さらに香港の貿易会社に勤務して50社以上のバッグ生産現場を見てきました。
▲香港に駐在時代
トライオンに入社するまで27年間、業界を渡り歩いてきましたが、メーカー、問屋、工場、貿易会社、レディース、メンズ、扱う商材も生地、革、樹脂系のスーツケースまで、幅広い立場と役割で仕事を経験する機会に恵まれたことが、私の大きな糧になっています。
手に取ってくださる一人一人に感動を
モノづくりや生産は1人ではできません。関わっている全員のチームワークが大事です。そのために、工員さんたちがそれぞれの作業の意図を理解できるよう指導することに時間と労力をかけるようにしています。
また、みんなに共有するようにしている意識として、ひとつひとつ均一な商品を作るという点があります。なぜなら、私たちが作っている商品は、工場にとっては100個でも、お客様にとっては「一期一会」だと思うからです。
こだわりは、開発ですね。「手に取った人を感動させたい」という思いが常にありますし、開発にかかわっている時間が一番楽しいです。常に新しく、面白いアイデアを出さないといけない。お客様自身がバッグのつくりについて詳しく分からなくても、ぱっと見たときに「何か違う」と感じでもらえるような商品をつくるよう心掛けています。
足し引きの機能美のバランスが大切だと思っていて、この点は「道具としてのバッグ」というトライオンのコンセプトにも通じる部分があると感じています。
▼トライフィルを支えるスタッフ達と
▲敷地内に遊びに来る子猫
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